illust by しぐれ[antipatia](Grazie!!!)




の愛の言葉より ただつの死を






時は流れる。それも残酷なほどの速さで。
十年という年月は、とても呆気なく過ぎた。
目まぐるしく変わる環境、人間関係、それらを今思い返すと、ここ十年の間にあったとは思えない位に濃密だ。
そんな中で、綱吉自身も大きく変わったと思う。
かつての同級生が今の自分の立場を知れば、驚くに違いない。平々凡々どころか何をやらせても平均値以下だった自分が、イタリアンマフィアでも最大勢力と言えるボンゴレのボスになっているのだ。驚かない人間なんていないだろう、と綱吉自身思う。自分でも未だに信じられない位だ。
どうしてこうなったのだろう、と疑問に思う時間さえなかった。次から次へとトラブルが起きて、それが片付いたと思ったらまた次の問題があって。我武者羅になってそれらを解決していって、気付いた時にはボスと呼ばれるようになっていた。「何故こうなった」と綱吉が思うよりも早く、「こうなってしまった」のだ。十年前はマフィアになんかなるもんか、と何度も口にしては抵抗していたというのに。
けれど、いつからだろう。いつから自分はそれを言わなくなったのだろう。覚悟を決めていたのだろう。

「……ああ、あの日、かな」

覚悟を決めた日を思い出し、小さく笑って綱吉は顔をあげる。まっすぐ空に向かって伸びるそれを、瞳を細めて見上げた。
ちょうどその時、ひらりと一枚の葉が落ちてくる。ゆらゆらと揺れ、ゆっくり地面に落ちるそれを最後まで眺めながら、人の命のようだと綱吉は思った。
いつ落ちるか、いつ消えるかわからない。強風に吹かれて落ちてしまう葉のように死に急ぐ者もあれば、今の葉のようにゆったりと最期まで生ききる者もある。
綱吉のいる世界では圧倒的に前者の人間が多い。そういう人間の中で、綱吉の霧の守護者である六道骸は、誰よりも生き急いでいるように思えた。

「……お前のせいで仕事ほっぽって、こんな所に来る羽目になったんだぞ、俺」

綱吉は一人呟き、眉間に皺を寄せる。
多忙を極めるイタリアンマフィアのボスである綱吉に、のんびり森を散策する時間などあるはずがない。ましてや日本の黒曜という土地に来る暇など何をかいわんや、である。隣町である並盛の実家にさえ帰る余裕がないのに、何故ここに来なければいけないのか。
理由は一つ。
六道骸がボンゴレを裏切ったせいだった。
霧の守護者である六道骸の裏切りが発覚したのは、今から大体半年前。彼が『復讐者』の水牢から条件をつけて解放され、ちょうど一年が経った日の事だった。
それより少し前から兆候はあった。ボンゴレの幹部しか知りえない情報が、敵対マフィアに流出するという出来事が頻繁に起きていたからだ。疑いをかけられた者のうち、明確に容疑が晴れなかったのは骸だけで、そして骸自身、肯定も否定もしなかった。
綱吉が直々に話を聞こうとしたその前日、骸は姿を消してしまう。彼の部屋に何か手がかりがないかと探した時、彼の置いていった携帯端末に他マフィアへ情報を流していた形跡が残っていた。
その結果骸は裏切り者の烙印を押され、ボンゴレは総力をあげて骸の行方を追う事となった。
もう一人の霧の守護者であり、骸の片割れとも言えるクロームは、この裏切りに関与していなかったらしい。骸にずっと付き従っていた千種や犬も聞かされていなかったようで、この三人は綱吉が可哀想に思う位、顔を青くしていた。
ボンゴレを裏切った事実などより、何も相談してくれなかった事の方がショックなのだろう。
クロームは何度も骸と接触を試みようと意識を集中させていた。何日も何日も、食事の時間さえも惜しんで、何とか骸と連絡をとろうと必死だったようだ。千種達も骸の行方を探して、あちこちを駆けずり回っていた。
けれど骸の方が接触を拒んでいるらしく、どんなに呼びかけても応答がない、とクロームが泣き出しそうな顔で言っていたのを、綱吉は今でもよく覚えている。
捜査効率を考えれば、捜索に割ける人員の多いボンゴレと協力する方が確実だ。けれど、骸と連絡をとりたいだけの三人とは違い、ボンゴレは骸を見つけ次第、殺さなければいけない。だからクローム達は独自に捜索を続け、時折ボンゴレの捜索の邪魔をしたりもした。
その行為は本来ならば許されるものではない。何しろボンゴレとて骸の身柄確保を迅速に行いたいのだ。けれど綱吉は彼らを咎める事はなかったし、時折入る邪魔についても目を瞑り続けた。
必死で骸の行方を追おうとしている三人には決して言えないし、言うつもりもなかったけれど、綱吉は「骸は二度と彼らの前に姿を現す事はないんだろうな」と思っていた。骸に会う意思がない限り、あの三人が骸と会える可能性は極めて低いと言えよう。
恐らく彼らもそれを薄々感じていたのだろう。だからこそ必死だったんだろうし、骸が捕まる瞬間を遅くしたくて、ボンゴレの捜索を邪魔したに違いない。
それが綱吉にもわかっていたから、彼らの行為には目を瞑りつつ、骸の捜索の指揮をとった。

多忙を極める綱吉自ら骸の捜索指揮をとったのには、骸が守護者だから、という事以外にも理由がある。
骸を『復讐者』の水牢から解放させる際、ボンゴレは『復讐者』と一つの取引をした。
それは「万が一骸が裏切り行為を犯した場合、半年以内に始末をつけられなければ、ボスの命で代償を支払ってもらう」というものだった。
その約束を取り付けた当時、古参の幹部の反対を押しのけ、ボスとしての権限を振りかざしたという出来事がある。そのため、骸の裏切りに対する処罰を迅速に行わなければボンゴレの権威が落ちるだけでなく、綱吉自身のボスとしての立場が危うくなってしまうのだ。
なるべく迅速に、かつ情報を漏らさないように。
それを前提にして捜索を続けた。しかし骸の行方は一向にわからなかった。否、わからないのではなく、捉えられないのだ。
あそこにいるらしいとか、次はあそこに現れるだろうと予測をしていても、霧の名の通り、知らぬうちにそこにいて、気付いた時には消えている。幻覚を使っているのか、それとも彼の類稀な頭脳による先読みの結果なのか、どちらにせよ一筋縄ではいかない相手なのは確かで、あと一歩の所で逃げられる事が続いた。
逃走しつつもボンゴレの末端をじわじわと破壊していく手口は、とても単独の犯行とは思えない。マフィアという世界を知り尽くしているからこそ出来る芸当だ。そして人の一番弱い部分をつく事に長けた人間だからこそ、己の手を汚さず、姿を見せる事なく争いを生み出せる。十年ぶりに敵対関係になってみて、改めて恐ろしい男だと思った。
決定的な手がかりを得られないまま、期限が近づいてくる。そんな時ようやく骸の居所が知れた。目撃を含めた情報なだけに信憑性も高く、このチャンスを逃せば次はいつ見つけられるかわからない。そう判断し、綱吉自ら現地に飛ぶ事になった。
それがここ、黒曜町の森である。
部下がついてくると言い張るのを「土地勘は誰よりもあるから」と言い、一人だけで森にやってきたのだ。
一人は危険だと右腕にも言われたけれど、どうしても一人になりたかった。一人だけでこの木の場所を探したかった。一人だけでここに立ちたかった。
骸と初めて出会ったこの場所に、他の人間を近づけたくなかった。

「……何か俺、女々しいかも」

自嘲めいた笑みを浮かべ、またこつん、と木に額をくっつけて瞳を閉じる。どれ位そうしていたのかわからない。多分さほど時間は経っていないはずだ。
人の気配を感じ、綱吉は咄嗟に身体を翻して木の影に身を隠す。直後、さっきまで綱吉のいた場所にナイフが突き刺さった。
殺気はない。気配も限りなく薄いものだ。それでも気付けたのは、綱吉の身体に流れるボンゴレの超直感のおかげだろう。
さくさくと落ち葉を踏みしめる足音が近づいてくる。少しずつ近づく人の気配。相変わらず殺気を纏っている様子はない。綱吉が身を潜めている木の近くで足音は止まり、幹に突き刺さっているナイフを引き抜く音がした。
知らないうちに握り締めていた手に汗が滲む。心臓がドクドクといつもより早い鼓動を刻む。

「いつまでそこに隠れてるんです?」

ドクン、と大きく心臓が跳ねた。
随分長い事聞いていない声に肌が粟立つ。懐かしすぎて身体が震えそうだ。
何度か静かに深呼吸をしてから、ゆっくりと木の影を出て襲撃者と対面する。












「……俺をそんなに殺したいのか?」
「ええ、僕のこの手で殺したい」




10年後捏造骸ツナです。
表紙はしぐれさんにお願いしました。無茶ぶりにも関わらず素敵な表紙をありがとうございました!!
尚、10年後捏造という事で、未来編の事は軽くなかったことにしてます。笑
一見シリアス。でも多分今まで書いたものの中で一番甘ったるいです。