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思いきり壁に叩きつけられる衝撃に、綱吉は内臓の全てを圧迫される苦しさで顔を歪めた。気絶しそうなほどの痛みを感じながら、砕けたコンクリートの破片で頬が切れ、流れた血の臭いを鋭敏になった嗅覚が確かに嗅ぎ取る。錆びた鉄の、何度嗅いでも慣れる事がない嫌な臭いだ。
重力に従ってずるずると床に落ちる身体を、支える力はもうない。うつ伏せの姿勢で、床にへばりつくように綱吉は倒れこんだ。それでも戦わなければ、修行を続けなければという気持ちが、綱吉から気力を奪わせなかった。ゆらゆらと額に灯る炎の熱を、まだ絶やす訳にはいかない。早く強くならなければ。もっともっと強くならなければ。元の世界に、皆で戻るためにも早く、強く。
悠然と立っている男を見る。埃一つついていない綺麗な黒いスーツは、当然乱れもないし皺もない。まだ綱吉の攻撃が彼に届いていない証拠だ。
こんな所で立ち止まっている暇なんてないのに。彼に一撃だって食らわせられない自分が歯がゆくて、八つ当たり気味に目の前の男を睨む。
「随分と生意気な目で見てくるじゃないか」
く、と喉で笑う男の声は、綱吉の記憶にある「その人」よりもずっと低くて、未だに少しだけ戸惑う。顔も声も「あの人」なのに「あの人」じゃない。「あの人」はもっと幼さがあった。自分と同じような、子どもっぽさが。
でもゆっくりとした足取りでこちらに近づく男は、細身のスーツを着こなした大人で、顔立ちも幼さが消えた精悍なものだ。
何度見ても見慣れない。小さな違和感が胸の中にくすぶって、つい綱吉は視線を逸らしてしまう。戦っている間はそんな事を考える暇もないからいくらでも凝視していられるのに、今は無理だ。
それがまずかったと知るのは、数分後。
「ねえ、まさかもう終わりとか言わないよね?」
「ぐ、ぁ……!」
ぐりりと肩甲骨のくぼみを狙い澄ましたように踵で踏まれる。骨が折れるほどではない、しかし激しい修行でくたびれた身体には相当応える痛みだ。
やっと背中から踵が降りたかと思ったら、今度は脇腹を靴先で抉られる。昨日の修行でついた打撲痕を的確に突いてきて、綱吉はまた呻くように声を漏らした。
「つまらないな……。君、こんなに弱かったっけ? もうちょっと手応えがあると思ってたのに」
興ざめだと言わんばかりの口調で言われ、綱吉はぎっと睨みあげた。
「まだ、これから強くなってみせるさ……!」
「そう。だったらこの程度でへばってないでよ」
「がっ……!」
蹴り転がす、というような生温いものではない。文字通り蹴りあげられ、再びコンクリートに身体をぶつける羽目になる。じんじんと痛む身体は、男に髪の毛を掴まれたせいで、床に倒れ伏す事を許されなかった。
すぐ近くまで男の顔が寄せられる。刃物のように鋭い目は楽しそうに細められていて、口元も弧を描いていた。今にも舌舐めずりをしそうな、そんな表情。
「こんなに小さかくて幼かったんだね、君は。あんまり記憶にないな……」
「お前だって、十年前は似たようなものだ、ヒバリ」
「まあ、そうかもね」
痛みのせいで途切れ途切れになる言葉を必死に繋げてそう言えば、男は―――雲雀はくつりと笑う。
元々近かった顔の距離が更に近くなり、赤い舌が見えたと思ったら、頬の裂傷を舐められた。ねっとりとしているのに、何となくざらついてもいる舌の感触に、ぞわりと肌が粟立つ。でも肌が粟立った理由は舐められたからではない。「何故そんな真似をしたのか」がわからない、漠然とした恐怖からだ。
雲雀は舌を出したまま笑っている。赤い舌に赤い血液がついていて、見てはいけないものを見た気分だ。けれど今視線を逸らすのは危険だと何かが綱吉に告げている。その何かは超直感ではない。多分、本能がそうさせているんじゃないかと思う。
「つまらないな……てっきり幼い君ならもっと驚くか何かすると思ったんだけど」
「反応を見て遊ぶ暇があるなら、修行の続きでもしたらどうだ」
「戦うだけの体力はもうないだろう? 気力だけでどうにかなるんなら、とっくに僕は君から一撃を喰らってるはずだ。自力で立ち上がる事さえできない弱者は、何を言っても負け犬の遠吠えにしかならないよ」
正論すぎる正論に、綱吉は奥歯を噛み締める。ついさっきまで感じていたもどかしさや悔しさを思い出すだけでなく、火をつけられた気分だ。
それをわかっているとでも言うように雲雀は笑みを深め、綱吉を床に押し倒す。髪の毛を掴んだままだから、したたかに頭を打ってしまい、一瞬ぐらりと視界が揺らいだ。視界が戻った後も、脳を揺さぶられた感覚がして思考も何もかもが定まらない。
気付いた時には、上に雲雀がのしかかってネクタイを緩めていた。
「何、を……」
「体力はなくてもまだ気力はあるようだからね。少しは僕を楽しませてよ」
「ふざけるな!」
雲雀の身体をどかそうと腕を突っ張って抵抗した。しかしそれはあっさりと払いのけられ、ガラ空きになった脇腹の打撲痕を思いきり押される。抵抗を止めざるを得ない位の激痛に、一瞬意識が遠のきそうになった。それでも何とか堪えて相手を見ると、どこから取り出したのか、一つの匣を手にしていた。今までの修行中、一度も見た事がないものだ。
綱吉が匣に視線を注いでいると、雲雀は小さく笑って指にはめていたリングに炎を灯し、匣へ炎を注入する。
開匣して出てきたそれが何であるのか、綱吉が認識するよりも早く、硬質な音と感触でもって綱吉の手首を拘束した。
「なっ……」
「これも一応匣兵器、なんだよ。まあ試作品だしこの試作品の匣とリングじゃ実用性には程遠いけど。それでも君の動きを封じる位の能力はあったみたいだね」
そう言って雲雀はトンファーを構え、思いきりコンクリートに突きさした。柔らかな地面に刺すようにいとも容易くめり込んだトンファーは、手錠の鎖部分を固定してしまう。両手を頭上にあげた状態から動かせなくなり、綱吉は冷たい汗が背中を伝うのを感じた。
「せいぜい僕を楽しませてよ」
表紙はまいさんから頂きました。色々我が侭言ってすいません…でもありがとうございます!
尚、この画像ではR18表記が入っていませんが、実際の表紙にはちゃんと入っております。
この後エロシーンに突入するんですが、雰囲気エロ的な…なんというか、あんまりエロエロしい感じのしない、淡々とエロになりました。ハイパーっぽいといえば、ハイパーっぽいかもしれません。笑
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