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朝日が分厚いカーテンを突き破るようにして差し込み、顔の辺りをぼんやりと照らし出すと、それがヒバリにとって起床の合図となる。
むくりと起きてうんと身体を伸ばし、ちらりと未だに眠る飼い主を見て、ベッドからすとんと降りる。最近は綱吉の枕元辺りで眠っているのだが、これが中々寝心地のいい場所なのだ。最初は用意された寝床で寝ていたし、それでいいと思っていたのに、随分な変化だと思う。でも寝心地がいいのだから仕方ない。
ベッドを降りて、猫である自分が通り抜けしやすいように、と少し開いているドアを抜け、水やエサの置いてあるキッチンに向かう。
綱吉の家は「アパート」と呼ばれるものらしく、家の中は狭いが少し歩くと欲しいものがあるし、何より彼の匂いが色んな所で濃く感じられるから、ヒバリはとても気に入っていた。
常にたっぷりと用意されている水を飲んでエサを食べ、食後の毛づくろいをした後、家の中をぐるりと見て回る。
狭い家の中だから、並盛の町を見て回るよりもずっとずっと簡単だ。でもここもヒバリの縄張りかつ、どこよりも大事な場所だから丁寧に、念入りに。変わったものがあれば、すかさず匂いをつけて縄張りを主張した。もちろん、そんな事をした所で綱吉が気付くはずもないし、他の猫がこの家に入る事もないのだけれど。
そうこうしていると、綱吉の寝ている部屋から軽快で単調な音が漏れ聞こえる。アラーム、というやつだ。それは音が大きくなるだけで止まる気配がない。またか、とヒバリはフゥと溜息に近い鼻息を漏らし、アラームの鳴り響く寝室に戻った。
猫の耳にはとんでもなく煩いアラームに顔を顰め、ヒバリは軽い助走をつけてからベッドに飛び乗る。
正確には、ベッドに寝ている綱吉の腹の上、だが。
「うぐっ……」
「ニャァ。にゃお」
綱吉、起きなよ、と呼びかけてやると、綱吉は苦しそうに顔を歪めながら目を開く。どうやら今日はまだ素直に起きられるらしい。酷い時は何度か腹の上に飛び乗り、頬に噛み付いてやっと起きるのだから、今日はスムーズに起きられた方だろう。
「……毎朝毎朝起こしてくれるの、嬉しいんですけど、も、もうちょっと優しく……」
「にゃぁおん」
「あ、はい、わかってます俺がアラームで起きればいいんですよね………」
「にゃん」
寝ぼけている綱吉はヒバリの言いたい事をちゃんとわかってくれるからありがたい。ちゃんと起きない君が悪いんだよ、というヒバリの言葉を聞き取って、がくりとうな垂れている。その綱吉の腹の上でヒバリはどうだ、と言わんばかりに座り込み、「にゃぁ」と鳴いた。
綱吉は苦笑いを浮かべてそんなヒバリの頭を撫で、ひょいを抱き上げてからアラームを止める。そしてヒバリを抱き上げたままリビングと呼ばれる部屋に向かうのだ。
こんな一匹と一人の朝が始まるようになって、もう一ヶ月ほどが経とうとしていた。
「ヒバリさーん、そろそろ家出ますよー!」
制服というものに着替え終わった綱吉がヒバリに声をかけながら玄関へと向かうので、のそりと身体を起こす。
そして一旦寝室に戻ってぐるりと見回した後、ぽつんとベッドの上に置き去りにされている袋を見つけ、それを咥えて引きずりながら玄関へと向かった。
「にゃーぉ」
これはいるものなんでしょ、と綱吉の前に置いてやると、綱吉は慌ててそれを拾ってバッグにいれる。
「危ない危ない……バイト先のエプロン、洗うだけ洗って持ってくの忘れるとこだったよ。ありがとうヒバリさん。そういや前も持ってきてくれたっけ」
賢いなぁヒバリさん、と言って頭を撫でてくれる綱吉に、君が忘れっぽすぎるだけだよという意味を込めて「にゃぉぅ」と鳴いたのに、「何、撫でられて嬉しいんですか? 本当に可愛いなぁ」と言って更に撫でてきた。やはり寝ぼけていないと会話は成り立たないようだ。
頭を撫でるだけ撫でた後、綱吉は「やっべ遅刻!」と叫び、玄関のドアを開ける。その隙間をするりと抜け、ヒバリは綱吉より先にアパートを後にした。
後ろから「怪我とかしないでくださいねー!」という綱吉の声がしたから、軽く尻尾を振って応えてやる。多分見ていないだろうし、気付かないだろうけど。
まだ残暑の残る時期だが、朝は少し涼しい。その間に毎日の巡回ルートを見て回ろうと、ヒバリはとことこと塀の上を歩いた。
途中、綱吉が学校に向かう姿や、高校の建物に入っていく姿が塀の上からだとよく見える。しかし向こうはそれに気付いていない。だからヒバリは綱吉が人間の群れの中に入っていって、他の人間に話しかけられ、笑って何かを話しているのを、いつも塀の上から眺める事しかできなかった。
綱吉が他の人間と会話をしたり、笑ったりしているのは珍しい事じゃない。学校じゃなく、バイト先である定食屋や、綱吉が夏休みの間だけやっていた他のバイト先でも見かけた。
最初は、何とも思わなかった。
でも少し前から何となく苛々するようになった。
群れているから苛々する。そう思うようにしていた。
でも、群れを見た時に感じる苛々とも違うような気が最近はしている。大体、人間が群れて行動しているのなんて何度となく見ているが、ここまで苛々した事はない。
綱吉が誰かと群れている。その時にだけこんなに苛々するのだ。飛びかかって、噛み付いて引っ掻いて、とにかく暴れたい。そんな気分になる。
したん、と尻尾がコンクリートの塀を打つ。自分がぐるると唸り声をあげている事に気付き、ヒバリはもう一度尻尾を塀に打ち付けて憂さを晴らすと、縄張りの巡回作業に戻る。綱吉も建物の中に入ってもう見えなかった。
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ふと、妙に煩い車のエンジン音が聞こえてくる事に気付く。ピクリと耳を震わせて音に意識を向けると、徐々にこちらに近づいてきているようだ。時折甲高い悲鳴のような音をさせているのがひどく耳触りだった。
綱吉もそれに気付いたのか、少し歩みを緩めて後ろを振り返る。
「うわっ、何だあの車……こんな車道も歩道もいっしょくたな狭い道なのに、すげぇスピードでこっち来てるじゃん! ちょ、ヒバリさん危ないから塀の上あがって!」
綱吉はヒバリの身体をすくいあげ、近くの塀の上におろすと、自分自身は塀に身体を寄り添わせるようにして道をあけた。
塀の上にあげられたヒバリからは、車の動きがよく見える。真っ黒い車は、何故か他の車と違って窓ガラスの部分も黒くて中が見えにくい。
少し瞳を眇めて見ると、中には大人の男が複数人乗っているようで、しかもスピードを緩める気配もないままにこちらに向かってくる。
アレは危険だ。
綱吉にそれをどうにかして伝えなければとヒバリが思った時には、もう車は目の前に迫っていた。
「何だこのクソ猫、邪魔だ!」
「ヒバリさん!」
肩で暴れるヒバリを男はあっさりと捕まえ、塀に叩きつけた。
綱吉は悲鳴に近い声で叫び、ヒバリの元に来ようとするけれど、両側から男達に押さえつけられていてそれもままならない。
「ヒバリさん!」
綱吉がそう最後に叫んだのと同時にドアは大きな音を立てて閉まり、来た時と同じ位の早いスピードで走り去ってしまう。
悔しい悔しい悔しい。
どうして人間じゃないのだろう。
何で猫なんだろう。
痛みで薄れる意識の中、ヒバリは強く強く思った。
人間になりたい、と。
「貴様に問おう」
表紙はしぐれさんから頂きました。仕事の早さに脱帽ですありがとうございます!
本文はいろんな所から抜粋&切り貼りに近いので、実際ご覧になった時「あれ?」と思われるかもしれません。
とりあえずメインになるかな? という所を抜いたらすごいダイジェストになりました…。
=追記=
この話は「K」という曲をモチーフにしています。……が、香る程度しか原形を留めていません(……)
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