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「な……何これ……」
「クフフ! 今日はバレンタインで、きっと綱吉君は今年もガトーショコラをくれると思ったので、お礼のものを雲雀君とお金を折半して買ってきたんですよ」
珍しく声を弾ませた骸が、紙袋の中から取り出したのは、少し濃いピンク色のボレロジャケット。続いて取り出したのは黄色いワンピース。
「どうです、可愛いでしょう?」
「うん、その胸のフリルと切り返しがオレの体型を良く理解してるなぁって思えてすごくムカつく位に可愛い」
「それは被害妄想というものですよ。そういうのはさておき、似合うと思ったから買ったんですから」
だから要するに貧乳でも似合う綱吉のための服、という事じゃないのかと反論するよりも早く、骸は次々に荷物を開封していく。
箱から取り出したのはジャケットの色とよく似たリボンのついているロングブーツで、一番小さい袋から出てきたのは、これまたジャケットと同系色のピンクリボンが可愛いバッグだ。
「ほら、ネックレスも買ってみたんですよ。羽根のモチーフが可愛いでしょう?」
「可愛い、けど……買いすぎだよこれは……」
「そんな事ありませんよ。本当ならもう少し服も買いたかったですし、コートもこれに合わせて買おうと思ってたんですから。でもコートは最近買ったばかりですしね」
あっけらかんと骸は言うが、そんな風に言えるレベルを超えていると綱吉は思う。
骸が買ったというワンピースやらなんやらの袋に刻まれている店名は、あまり可愛い服装とかに興味がないし、こだわりのショップがある訳でもない綱吉でさえ知っている所ばかりだ。しかもその店名は、仲のいい友達が「可愛いんだけど高くて手が中々出ない」と言っていた所ばかりである。
「さ、綱吉君」
「ナ、ナンデショウ?」
「これに着替えてください。お望みの可愛い女の子になれる事間違いなしですから」
「べ、別にオレはそんなの希望してな……」
「僕や雲雀君はかっこよくてズルイと言う綱吉君だって十分可愛いという事を、僕らに見せてください。じゃあ僕らは廊下で待ってますから、できるだけ早く着て下さいね。じゃないと昼食も食べにいけませんから」
「え、ちょっ……」
「僕お腹空いてるから早くしてね綱吉」
言いたい事だけ言って、男二人は部屋を出て行く。パタン、と閉じられた扉の音がやたらと虚しく聞こえた。
ちらりとベッドを見れば、「さあ着ろ」と言わんばかりの服達が綱吉を待っている。ついでに腹の虫も「早く何か食わせろ」と言わんばかりにきゅるりと鳴いた。
着なければ、食べに行けないのはどうやら確定。ついでに、こんな格好をさせるからにはラーメン屋というのも多分骸が許さない。
「……はぁ……」
普段は何かと綱吉の意見を優先してくれる幼馴染だけれど、一旦「こう」と決めたら絶対に有無を言わせないのは、身に染みてわかっている。
諦めて綱吉は家から着てきたトレーナーとジーンズを脱ぎ、用意されている服装に着替えた。
「入ってもいいですよー」
廊下にいる二人に声をかけると、ガチャリとドアが開き、満足そうに笑みを浮かべた骸と、やはり満足そうに瞳を細めている雲雀が入ってきた。
「うん、いいじゃない。似合ってるよ」
「ええ、とても可愛いですよ綱吉君。ネックレス……は上手くつけれなかったようですね。僕がつけてあげますから、後ろを向いて下さい」
「うん、お願いします」
くるりと後ろを向くと、慣れた手つきで骸がネックレスを付けてくれる。ちょうど鎖骨の辺りにペンダントトップがきて、ひんやりと冷たい。
「どう、かな?」
「とても似合ってますよ。僕の目に狂いはなかったですね。ねえ、雲雀君?」
「そうだね。バッグも可愛いし。ほら、持ってみなよ綱吉。ついでにブーツも履いてみたら?」
言われるままにブーツを履き、雲雀からバッグを渡されるままに手にぶらさげ、骸の部屋にある大きな姿見に自分の姿を映してみる。
しかしそうやって見てみても、綱吉には似合っているのかどうなのかがわからない。自主的にスカートを履く事がないし、ヒラヒラのフリルがふんだんに使われた服や、リボンがたっぷりの装飾品も欲しいと思った事がないから、ピンとこないのだ。
でも、鏡越しに映る骸と雲雀はとても満足そうだし、しきりに「似合ってる」とか「可愛い」とか、何ともむず痒くなる台詞を連発しているので、おかしすぎる事はない、のだと思う。幼馴染の欲目とかじゃない事を祈るばかりだ。
「でもやっぱスカートって落ちつかないなぁ。冬だとすごく寒いしさ。ブーツ履けばマシっちゃマシだけど……」
「普段からスカートを履いてれば気にならなくなるんじゃないの。第一、制服のスカートはちゃんと履いてるじゃないか」
「それは何かもう義務みたいなものですもん。履かなかったらヒバリさん怒るでしょ?」
当たり前だろと鏡越しに言われ、なら制服のスカートは履くしかないじゃないか、と言い返した。すると骸はベッドの上に散乱している空いた紙袋を整理しながら苦笑する。
「でも雲雀君の言う通り、日頃からスカートを履けばいいじゃないですか。僕や雲雀君が頼まないと絶対スカート履かなくて困る、と奈々さんが嘆いてましたよ」
「だってスカートだと足広げて座れないもん」
「ズボンでも座っちゃダメ」
ぱこん、と背後から雲雀に頭を叩かれる。本人は軽く叩いてるつもりなのだろうが、見た目にそぐわぬ馬鹿力だからかなり痛い。鏡越しに恨めしい気持ちを込めて睨むと「反抗的」とか言われてまた叩かれた。
唇を尖らせ、不満を表情で表現し続けていると、また骸に笑われる。そして叩かれて乱れた髪の毛を軽く整えてくれた。
「女の子扱いされたいなら、スカートを履いてる方がわかりやすく女の子扱いしてもらえますよ」
「別に女の子扱いされたい訳じゃなくって、元々の顔とかが可愛ければいいな、っていう事だもん」
「おや、なら十分に可愛いんだからいいじゃないですか」
「そう言ってくれるのは骸さん達だけだよ……完全に身内の欲目? とかそういうやつじゃん!」
そんな事はないんですけどねぇ、と苦笑交じりに骸が言う。そして改めて綱吉の姿をまじまじと見てくるので、やっぱりどこかおかしいのか、と首を傾げると、骸はそうじゃないと言うように首を振った。
「綱吉君も、何だかんだ言って女の子なんだなと思っただけですよ。見た目に頓着しないのかと不安だったんですけど、気にしてますもんね」
「そりゃ……周りが化粧とかするようになったら、やっぱりオレもした方がいいのかなとかそういう事、考えたりするよ。めんどくさそうだからやらないけど」
「……そう思う辺りまだまだですねぇ……」
溜息混じりに言う言葉が少し引っかからないでもないが、事実だから仕方ない。可愛く見られたいという気持ちがあるのは確かだが、「女の子らしい自分」というものが想像できない。
ただし綱吉がそう思っている事を言えば、絶対に雲雀辺りが「見た目は十分男子として合格だけどね」とか言いそうなので、絶対に言わない事にしている。
……そういえば、雲雀がやけに静かだ。いや、元々お喋りな方ではないから常時静かと言えば静かなのだけれども、化粧の話題を中学生がしている事を知ったら、絶対に「風紀が乱れる」とか何とか言いだして、渋面を作りそうなものなのに。
そう思いながら雲雀を見ると、彼にしては珍しくぼんやりとしていた。綱吉を見ているのだけれど、綱吉を通り越した別のものを見ているかのような目である。
「ヒバリさん? どうかしたんですか?」
「……ああ、うん。別に。何でもない」
とてもじゃないが、何でもないようには見えない。
具合でも悪いのだろうか。言動に反して、実は三人の中で一番雲雀が病弱で、子どもの頃はしょっ中風邪をこじらせて病院の世話になっていた。曰く、気管支が弱かったのと、彼の祖母が心配性だっただけだそうだが、それでも今も尚、風邪を引きやすい体質なのは間違いない。
「具合、悪いんなら今日は外に行かないで家の中で遊びましょうよ。ご飯も……まぁ…時間かかっていいなら、オレが作るし」
「いや、本当に何でもないよ。ちょっと昔を思い出してただけだから」
「昔、ですか?」
ことりと首を傾げて尋ねると、雲雀は小さく頷く。そして骸の方に視線を向けた。
「昔、綱吉が本気で男子になるのかと思ってヒヤヒヤしたのを思い出してた」
「あぁ……確かにあの時は驚きましたねぇ。それにお互い、妙な気を回したりもしましたよね。今考えるとバカバカしいと思うんですけど」
「……なんの話?」
綱吉には二人が何の事を言っているのかわからない。
昔の話、というのと、綱吉に関する事、というのはわかるけど、それが何だというのだろうか。それに、妙な気を回したとは、何の事だろう。
苦笑しあっている骸と雲雀を交互に見ていると、綱吉の視線に気づいたらしい二人が、同時に綱吉の頭を撫でてきた。
「君が女の子に見えるようになって良かった、って話」
「一時期男の子になりたがってましたから」
そこまで言われて、綱吉は何となく「あの事かな?」という過去を思い出す。
あれは綱吉が小学五年で、二人が小学六年の頃。
まだ綱吉の髪の毛が今より少し長くて、今より少しだけ女の子らしかった時の事――――。
幼馴染設定の綱吉女の子版です。
冒頭とラストは現在の時間軸ですが、話の中心は綱吉が小学校5年、骸と雲雀は小学校6年という過去に遡った話になります。テーマ的には骸と雲雀が「綱吉は女の子だった!」と思い知る話。
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