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「それ、どこにあったんですか?」
「君が昔使ってた教科書とか通知表の束の箱に入ってたよ。そういえば君の通知表久しぶりに見たけど酷いね」
「……アルバム見ましょう! ね!」
嫌な話題に矛先が向く前に、綱吉は雲雀の手からアルバムを奪って一冊目を開く。分厚い表紙を開くと中にある薄っぺらい中表紙に当たる部分には、「むー君のアルバム」と、母の字で表題らしきものが書かれている。つまり、骸の写真が中心のアルバムだ。
因みにもう一冊には「きょう君のアルバム」とあるし、最後の一冊は「つー君のアルバム」となっている。
沢田家の息子は綱吉一人だけだが、知り合って以降急速に仲良くなった事や、骸と雲雀の家庭の事情的な事があって、綱吉の母親は骸と雲雀も息子同然に扱った。だからご飯茶椀や箸は当然二人の分が子ども用の頃から揃っているし、いつだって泊まれるように二人の歯ブラシやら着替えやら布団やら、果てはバスタオルまで二人専用のものが常時用意されているのだ。
当然アルバムだって三人分が用意されているのだけれど、大体三人で行動しているので、写真の背景や日にちはほぼ同じだったりする。
だから一冊目の骸のアルバムに収められている写真は、一応「骸用」と銘打ってるだけあって骸がメインではあるけれど、他の二人もしくはどちらか片方も映っているものが多かった。多分これは雲雀のを見ても、綱吉のを見てもそうだろう。
ただ、単独で写っている写真がない訳ではない。
「うわあ、これって小学校の卒業式の写真ですよね? これ現像した時に見たきりだ。黒曜大付属の卒業式も、並小とあんまり変わらないんですね」
綱吉が指差した写真は、骸が一人で「黒曜大学付属小学校卒業式」と大きく筆で書かれた看板の横に立ち、お馴染みの筒を持って笑っているものだ。
「まあ卒業式なんて大体どこも同じようなものです」
「そっかぁ。………あれ、何で雲雀さんの卒業式の写真、骸さんもいるの?」
骸のアルバムを開きながら、綱吉はついでだからと雲雀と自分のアルバムも開く。どうせほぼ時間軸は同じなのだから、見比べるのも面白いと思ったのだ。しかしその雲雀のを見た時、骸と同じように「並盛小学校卒業式」と言う看板の隣に立って若干むすりとした顔で立つ一人だけの写真の他に、骸と並んで映っている写真があったのだ。因みにこちらの方は、一人だけより少し柔らかい表情をしている。沢田家の門前で撮った三人の写真だと、更に柔らかな表情をしてるのは言わずもがなだ。
「この写真見た時にも同じ事聞いたよね、君」
「え、そうだっけ……?」
「クフフ……そうでしたね。これは、僕の卒業式が雲雀君の所の前日だったので、暇だったから奈々さんと一緒に卒業式に参列してたんですよ。因みに綱吉君はこの写真を見てズルイズルイとしきりに言ってましたね」
「うっ……そういえばそんな事があったような……」
言われて見れば、そうだった気がする。というか、そうだった。今見てもちょっとズルイなぁと思ってしまうのだから、小学校の自分は更に激しく主張した事だろう。
照れ笑いを浮かべながら更にページを捲る。
すると卒業式の次にあったのは、当たり前といえば当たり前だが、中学校の入学式の写真だった。こちらもまたそれぞれ一人で撮った写真の他に、入学式を終え、沢田家の門の前で撮った三人の写真が収められている。
骸のアルバムには、真新しい制服に身を包む骸を囲んで笑う綱吉と、写真が苦手な癖にそこそこ柔らかい表情をした雲雀。雲雀の方も、真新しい学ランを着て不敵に笑う雲雀と、楽しそうに笑う骸と綱吉がいた。
雲雀のアルバムに残された写真を見て、綱吉はある事に気付いて小さく笑う。少しだけ、二人から距離を取るような位置にいる自分が、とてもおかしく見えたのだ。
あの頃の自分は、バカなりに色々考えていたっけ。
ほんの数日前までは同じ小学生だった。でも着る服が変わっただけでこんなにも「お兄ちゃん」に見えるものなのか、と綱吉は驚いた。
行儀やら勉強やら、奈々よりもずっと厳しい事をたくさん言うけれど、結局はとても甘い二人の幼馴染に、綱吉はいつだって甘やかされてきた。いつだって二人に守ってもらった。
綱吉は自分でも己の鈍臭さを自覚しているから、同級生に「ダメツナ」とからかわれたりするのを仕方がないと思っている。それでもイジメらしいイジメに遭った事がないのは、間違いなく骸と雲雀の存在のおかげである事もまた、自覚していた。
綱吉が泣けば、必ず骸や雲雀が助けに来てくれる。困った事があれば、絶対に助けてくれる。それを綱吉の同級生達は知っているから、必要以上に綱吉をからかったりしない。無論、気の良い同級生達が多いというのも理由の一つではあるけれど、骸と雲雀がいなければ、多少のイジメまがいな事はされていたと思う。
いつだって綱吉の近くには二人がいて、いつだって綱吉を助けてくれた。
中学校という場所に行っても尚、二人は「後から入学する綱吉のために」と、何かをしようとしているらしい。
今までも漠然と感じていて、でも目を背けていた事と、改めて向き合った気がした。
自分は二人がいなければ何も出来ないのだろうか。
困った事があれば、中学校にいる二人に泣いて助けに来てもらうのだろうか。
――――そんなのは、嫌だ。
ぐ、とテーブルの下で握り拳を作る。
綱吉だってもう小学校六年生だ。中学生になった骸や雲雀達にしてみれば、小さい子どもにしか見えないだろうけれど、小学校の中では最高学年になる。ダメツナと名高い綱吉が何かのクラブの部長をやるとか、クラスの級長になるとか、そういう事は絶対にない。でもクラスメイトにはそういう役職をやる子が何人もいるのだ。
それに始業式があった一昨日、校長先生が「六年生になった子は、下級生達のお手本となるよう、自分で出来る事は自分でやり遂げられるようになりましょう」という事を言っていた。あの時は何気なく聞き流し、早く終わればいいのにとしか思わなかったけれど、今更のようにとても大切な言葉だったのだと思い知る。
「綱吉君? どうかしましたか?」
「具合悪い?」
黙りこんだ綱吉に気付き、テーブルを挟んだ向こう側にいる骸が心配そうに眉尻を下げて尋ねてくる。隣にいる雲雀は綱吉の顔を覗き込んできた。一見無表情に見えるけれど、その目には心配そうな色が浮かんでいるのを、綱吉はちゃんとわかっていた。
「ううん、平気! そういえばまだ俺、ヒバリさんと写真撮ってないから撮りたいなぁ」
「そういえばそうでしたね。ついでに散歩がてら、すぐに現像しに行きましょう」
「そうだね。すぐに見たいし、帰ったら撮ったの全部アルバムにいれようか」
「うん! ね、母さん写真撮って!」
「はいはい。じゃあ三人は先に玄関に行っててちょうだいね。すぐデジカメ持って行くから」
奈々に促され、三人は揃って玄関前に行く。主役である雲雀を真ん中に、その左隣には骸が、右隣には綱吉が並んだ。
「お待たせ、三人共。準備はいい?」
「うん、いいよ」
「いつでもどうぞ」
「母さん早く早く! 顔ひきつっちゃう!」
「うふふ! じゃあ撮るわね。はい、チーズ!」
電子音がして、奈々が無事に撮れたのを確認してからデジカメと現像代の入った財布を綱吉に渡す。その時、骸と雲雀にはわからないよう、こっそりと綱吉に「あれで良かったの? つー君」と耳打ちをしてきたけれど、綱吉はそれに笑って頷いた。
まだ保存前の画像が表示されたのを綱吉はチラリと見る。そこに映されているのは、今し方映った自分達の姿。
綱吉が僅かに雲雀達から距離を置いている、今までとは違う画像。
まだこの画像を見ていない二人は気付いていない。しかし現像された写真を見れば、二人はこの距離に気付くだろう。でも綱吉はその事を問われても絶対に言わないつもりだった。
来年綱吉が中学校へ入学する時までに、この距離を詰められるようにしよう。そう心の中で誓いながら、綱吉はその画像を保存して電源を落とした。
幼馴染設定の綱吉男の子版です。
冒頭とラストは現在の時間軸ですが、話の中心は綱吉が小学校6年、骸と雲雀が中学校1年という過去にさかのぼったお話になります。テーマ的には「綱吉、1人で頑張る」という感じのお話。
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